こんにちは。
今晩の100分で名著 坂口安吾”堕落論”の第4回「真実の人間へ」にゲストに登場する町田康さんですが、彼もまた「真実の人間へ」フォーカスした名著を残している作家です。
彼の作品の特徴は独特の軽妙な言い回しです。彼の作品には長編作品には文庫で600ページを超えるものもありますが、それを感じさせない勢いのある文体で、サクサク読み進めることができます。
一方でただのエンターテインメント作家というわけではありません。その裏側に人間が人間であるゆえの闇の深さ、人間であることの難しさといった彼の持つ文学性が強く反映されています。
町田康の原点、パンクロッカー町田町蔵とは
町田康は1891年パンクロックバンド「INU」のボーカル町田町蔵としてデビューします。しかしそのINUはすぐに解散、その後は様々なバンド、ユニットを作っては空中分解を繰り返します。
彼がそんな行動を繰り返したのも、心の中に既存のロックやパンクロックまたそれらのファンに対して懐疑的な思いを抱いたためだと考えられます。自らの強いこだわり、人間としての自我とファンの求めるロックとのかい離に対する回答が、彼のそんな行動だったのだと思います。
パンクロッカー町田町蔵の内面を描いた「くっすん大黒」
それを強く感じさせるのが町田康を芥川賞候補となった「くっすん大黒」です。(芥川賞受賞作品は「きれぎれ」です)「真実の人間へ」向き合い続けた内面性と、それを包み隠せる軽妙な文才が、彼を作家の道に進ませたのは自然の流れだったように感じます。
くっすん大黒は独特のリズム感を持った作品で(これはほかの小説にも言えるのですが)一気に読み進めることができるエンターテインメント作品です。
一方でその奥には彼の持つ文学性が隠されています。主人公楠木は、不器用なまでにこだわりの強さを持っています。そして彼は俗物的なものに対し否定的な反応を見せます。それはパンクロッカー町田町蔵が自分自身、そしてロックに群がるファンたちに抱いていた葛藤と同種のものだったのではないかと考えさせられます。
実在の事件「河内十人切り」を題材とした「告白」
そんな彼の代表作品で私が自信をもって名著といえるのが、2005年に発表され谷崎純一郎賞を受賞した大作「告白」です。
この「告白」は明治時代に大阪府で発生した実在の事件「河内十人切り」を題材とした作品です。河内音頭の題材としても有名です。
この作品も600ページを超える長い作品ですが、彼のリズム感のある文体により時間を忘れて読み進められる作品です。これは彼の作品全般に共通している点なのですが、そのテーマの重さを感じさせない心地よいリズムが作品にエンターテインメント性を持たせています。
この作品はセンセーショナルな殺人事件の主人公「城戸熊太郎」の内面性を深く深く掘り下げた作品です。「河内十人切り」を題材に町田の持つ不器用さ、世俗的なものに対する厭世観が大きく反映されたものとなっています。
読了後はその面白さに満足すると同時に「真実の人間」とは何かを深く考えさせられる名著だと思います。
町田康の魅力とは
私が感じる町田康の魅力とは、世俗的な世界で生きづらい人間の人間らしさを作品で表現するとともに自らも体現しているという点です。
町田康は2007年に布袋寅泰に殴られ被害届を出したことで話題となりました。原因は音楽性の違い。プロとして本格的な活動をしたい布袋寅泰と、趣味の範囲で活動したい町田との間にすれ違いが生じたためだといわれています。
このように書くと町田が作家であるため趣味の範囲でやりたかったんだな、という風に感じられる方も多いと思います。しかし前述のこともあり、町田は本気で趣味としてバンドをやりたかったんだと思います。言い方を変えると、音楽を商業化したくなかったといえるでしょうか。
真実はわかりませんが、私は彼の各作品から湧き出る人間の人間であることの難しさ、そしてエンターテインメント性の高い文章力が最大の魅力だと感じています。
ここでは紹介しきれませんでしたが、「パンク侍切られて候」もおすすめの作品です。こちらもエンターテインメント性と文学性を兼ね備えた作品になっていますが、特にエンターテインメント性が強く出ており、より楽しく読むことができると思います。
告白は長いからちょっとという方は一度「パンク侍切られて候」を読んでみてはいかがでしょうか。