府中に住んでかれこれ十数年になる。
競馬は毎週やっているが、もう何年も競馬場に行っていない。
昔はよく府中競馬場に行き3コーナーで声をからしていたが、今は声をからすこともなくなった。
日曜日の朝、I-Phon16にセットしたドビュッシーのアラベスク第一番で目を覚ます。
これはあくまで個人的な好みだが、目覚めがいいのはチッコリーニの音源である。
イーストティモールをドリップしながら僕はIPhonに語り掛ける。
「Heyポテイトーズ。3万円」
ポテイトーズはスマートAI競馬コンシェルジュアプリである。
Iphonの画面に3つのコースが表示される。
・予算10万円コース 60%
・予算30万円コース 90%
・予算60万円コース 95%
ポテイトーズは回収額を設定すると複数の買い目の組み合わせを自動選択で提示してくれる。
やれやれ。
そう辟易しながら僕は10万円コースを選択する。
それだけで馬券の購入まですべてやってくれる。
ポテイトーズの予想確率はあくまでその回収額を超える確率であり、100%を下回ることはほぼあり得ない。
それでも確率の低いものを選んでしまうあたり、やはり僕は生まれながらのギャンブル中毒なんだろう。
ふとSNSをチェックする。
「今日の有馬記念、会社のお金500万円をオルロフの単勝に全部かけます」
オルロフとは今年の3歳クラシック三冠馬で父サトノダイヤモンド、母ジュエラーの良血場である。
いまや日本競馬において「サンデーサイレンスの血の一滴は、10カラットのダイヤモンドよりも価値がある」と言われている。
そのサンデーサイレンスの血を奇跡の血量で持つこの無敗の3冠馬は、189.62カラットのダイヤモンドと同じ名前を与えられ、それにたがわぬ活躍を見せている。
単勝1.3倍、それがすべてを物語っている。
イーストティモールを飲みながら身支度を整える。
今日はロードバイクでプラダの似合う彼女と海に行く予定なのだ。
「下についたよ」
彼女からのメールだ。僕らはロードバイクに乗り横浜に向かう。
左へカーブを曲がると、光る海が見えてくる。
僕は思う。この瞬間は続くと、いつまでも。
みなとみらいで映画を見たり、いろいろしてるとiphonに競馬ニュースが入ってくる。
有馬記念。オルロフは2着に敗れた。買ったのは日高産のキタサンブラック産駒、キタサンホワイトだ。突然変異の白毛馬で完全に人気過剰の馬だと思っていた。
「やはり競馬に絶対はない」
そんなことを考えていると、ポテイトーズから収支報告が入ってきた。
+32600円
中央線は人身事故の影響で遅れている。
やれやれ。
競馬には絶対がある。
そう、ポテイトーズならね。
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という夢を見たんだ。